日本でファイザー社のワクチンが承認されてから、2か月以上経ちました。当初は日本人のデータは120人分しかありませんでした。そのため、国民に広く接種を実施する前の短期的な副反応情報等を収集・公表することによって、個人が接種の判断を行うための参考情報となるよう、最初に投与された医療従事者(先行接種対象者)約2万人に健康日誌をつけて副反応を調べるという大規模調査(コホート調査)が行われています。私もその調査の参加者です。
「新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)」は令和2年度厚生労働行政推進政策調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進事業)として、厚生労働省の補助金が出ている、つまり厚生労働省からお達しの調査(厚生労働科学研究)となります。
こちらの調査の中間報告は、順天堂大学医学部附属順天堂医院の臨床研究・治験センターのURLからPDFを見ることができます。https://www.juntendo.ac.jp/jcrtc/about/results-of-activity/COVID19/covidresearch.html
今回は4月23日に更新された中間報告から、先行接種対象者のデータを紹介します。
新型コロナワクチンの投与開始初期の重点調査(コホート調査)の概要
目的・調査内容
本調査の目的は次のように記載されています。
リスクコミュニケーションの一環として治験と同様の方法で、1-2万人の安全性情報を収集し、厚労省の専門家会議を通じて国民の皆様に本ワクチンの安全性情報を発信することを目的とする。
免疫を惹起することに伴う発熱、倦怠感などの副反応疑いの情報を正確に把握し、医療機関の業務と両立したワクチン接種が遂行できるように情報発信する。
当初、ファイザー社のワクチン情報は治験で得られたデータしかなく、その限られた情報から医療従事者への接種を行う必要がありました。ワクチン接種の副反応によっては業務を休む可能性があり、その結果、医療提供体制に影響を及ぼす恐れがあったため、接種の日を分散させること、なるべく休日前に設定することが望ましいと最初の説明でありました。私の勤務する病院も複数回分けて投与しました。
調査内容は「SARS-CoV-2ワクチン接種者の最終接種4週後までの安全性」です。
- 体温、接種部位反応、全身反応(日誌)
- 主たる目的は副反応疑い、重篤な有害事象(因果関係問わず)のコホート調査による頻度調査
- 対象は国立病院機構、地域医療機能推進機構、労働者健康安全機構の職員
- 2万人調査すると0.015%(6700人に1人)発現する副反応疑いが95%の可能性で補足できる。
この調査はワクチン接種者を対象とする前向き観察研究です。観察研究には、すでに投与した後からデータを調べる「後ろ向き観察研究」と、観察者を特定して収集する情報を決めて調査を行う「前向き観察研究」があります。前向き観察研究の方が、データの漏れがなく、より実際に近いデータを得ることができます。先行接種者の健康調査の概要として、この調査を行うことで「広く接種を実施する前の短期的な副反応情報を収集・公開することによって、個人が接種の判断を行うための参考情報とする」、と厚生労働省予防接種・ワクチン分科会のスライドに記載されています。
調査の流れ
ワクチン接種と調査の流れは次の通りです。
ワクチンの被接種者(ワクチンの接種を受けた人)は、本調査に同意し、接種までにある程度予診票を記載します。予診票には持病や過去のワクチン接種での副反応などを記載します。ワクチン接種後、健康観察日誌を10日間つけて、提出します。接種2回目も同様に行います。接種2回目10日後以降も副反応がある場合や、28日後までにCOVID-19への感染有無を報告して、調査終了となります。
ワクチン被接種者が勤務する病院では、被接種者に調査の説明を行い、同意を取得します。その後、回収した予診票、問診票、健康観察日誌のデータ入力を随時行います。また被接種者から副反応があり、入院やアナフィラキシーなどの重篤な副反応があれば、ワクチン調査事務局を通して報告します。
新型コロナワクチンの投与開始初期の重点調査(コホート調査)の結果(4月23日時点)
被接種者の情報
調査に同意した被接種者は19,807名、2回目接種者19,579例で、次のような内訳です。
- 年齢:20代 21%、30代 24%、40代 25%、50代 21%、60代 8%、70代 1%
- 男女比:男性 34%、女性 66%
- 職種:医師17%、看護師47%、事務11%、薬剤師・検査技師・放射線技師 各3%、理学療法士2%、介護系職種2%、その他12%
治療中の疾患として、高血圧症が8.7%、脂質異常症が5%、糖尿病が2.1%、気管支喘息が2.2%、アトピー性皮膚炎が2.9%、その他が13.1%で、治療中疾患なしが全体の73.4%でした。
既往歴として気管支喘息は9.8%、悪性腫瘍は2.1%、いずれもなしが約88%でした。
副反応:発熱(37.5℃以上)
1回目接種後は19,173例のうち、接種翌日に2%、通期で約3%の人で37.5℃以上の発熱がありました。38℃以上の発熱は1%程度でした。
2回目接種後は17,376例のうち、接種日当日は3%、接種翌日に36%、接種二日後7%、に37.5℃以上の発熱があり、通期で38%の人に発熱がありました。38℃以上の発熱は接種翌日に20%、通期で21%でした。
明らかに接種2回目に発熱の副反応があり、接種2回目の接種翌日に36%の人が発熱しています。接種2回目の接種二日後には発熱の副反応は7%に減少しており、多くの人は接種翌日のみ発熱しているようです。
副反応:接種部位反応(発赤、腫脹、硬結)
ワクチン接種時の接種部位反応は次の通りです。(グラフから読み取ったためおおよその数値)
接種日 | Day2 | Day3 | Day4 | Day5 | Day6 | Day7 | Day8 | ||
接種1回目 | 発赤(%) | 4.8 | 11.8 | 10.4 | 6.4 | 3.5 | 1.8 | 1.2 | 1 |
腫脹(%) | 5.0 | 11.8 | 8.8 | 4.5 | 2.2 | 1.0 | 0.8 | 0.8 | |
硬結(%) | 4.2 | 9.8 | 7.6 | 4.1 | 2.1 | 1.2 | 0.8 | 0.8 | |
接種2回目 | 発赤(%) | 4.0 | 12 | 13.2 | 9.8 | 5.8 | 2.5 | 1.3 | 0.8 |
腫脹(%) | 5.0 | 12.2 | 10.5 | 6.8 | 3.6 | 1.6 | 0.8 | 0.5 | |
硬結(%) | 3.4 | 8.8 | 7.8 | 5.2 | 3.2 | 1.8 | 0.9 | 0.5 |
接種1回目、接種2回目で大きな差はみられませんが、接種翌日(Day2)、接種二日後(Day3)までは1割くらいの人に発赤や腫脹がみられるようです。
副反応:接種部位反応(疼痛、熱感、かゆみ)
ワクチン接種時の副反応のうち、疼痛、熱感、かゆみは次の通りです。(グラフから読み取ったためおおよその数値)
接種日 | Day2 | Day3 | Day4 | Day5 | Day6 | Day7 | Day8 | ||
接種1回目 | 疼痛(%) | 65 | 90 | 55 | 19 | 5 | 3 | 2 | 2 |
熱感(%) | 6.8 | 10.1 | 4.8 | 1.6 | 0.8 | 0.4 | 0.2 | 0.2 | |
かゆみ(%) | 1.8 | 2.6 | 4.1 | 4.1 | 2.6 | 1.2 | 0.8 | 0.8 | |
接種2回目 | 疼痛(%) | 68 | 88 | 62 | 32 | 14 | 5 | 2 | 1 |
熱感(%) | 7.8 | 15.9 | 8.6 | 4.2 | 1.8 | 0.8 | 2 | 1 | |
かゆみ(%) | 1.8 | 4.4 | 6.8 | 7.2 | 5.4 | 2.6 | 1.2 | 0.8 |
疼痛の副反応は約9割の人に発現しており、ほぼ確実に出ると予想されます。接種1回目、接種2回目と比較すると、接種2回目のほうが、疼痛が持続しやすく、また熱感やかゆみも発現した人が多くなっています。疼痛や熱感は接種翌日(Day2)に多くの人に発現していますが、かゆみは接種二日後(Day3)、接種三日後(Day4)に発現している人が多く、疼痛や熱感と比べて遅れて発現しているようです。
副反応:全身反応(頭痛、倦怠感、鼻水)
ワクチン接種時の副反応のうち、全身反応(頭痛、倦怠感、鼻水)は次の通りです。(グラフから読み取ったためおおよその数値)
接種日 | Day2 | Day3 | Day4 | Day5 | Day6 | Day7 | Day8 | ||
接種1回目 | 頭痛(%) | 8 | 12 | 7 | 5 | 4 | 3 | 2 | 2 |
倦怠感(%) | 11 | 16 | 7 | 4 | 3 | 2 | 2 | 1 | |
鼻水(%) | 5 | 6 | 5 | 4 | 3 | 3 | 3 | 3 | |
接種2回目 | 頭痛(%) | 16 | 48 | 27 | 13 | 8 | 5 | 3 | 2 |
倦怠感(%) | 22 | 66 | 35 | 15 | 7 | 4 | 3 | 2 | |
鼻水(%) | 5 | 11 | 7 | 5 | 4 | 3 | 2 | 2 |
頭痛、倦怠感は明らかに接種2回目の方が半数以上の人に発現しており、発現ピークは接種翌日のようです。鼻水は花粉症の時期と重なったことも一定数いる一因のようです。
副反応:男女差
副反応の男女差です。(グラフから読み取ったためおおよその数値)
全体 | 男性 | 女性 | 65歳以上 | ||
接種1回目 | 発熱(%) | 3 | 2 | 4 | 1 |
接種2回目 | 発熱(%) | 38 | 30 | 42 | 9 |
接種1回目 | 接種部位疼痛(%) | 92 | 89 | 94 | 82 |
接種2回目 | 接種部位疼痛(%) | 91 | 86 | 93 | 80 |
接種1回目 | 全身倦怠感(%) | 23 | 17 | 26 | 12 |
接種2回目 | 全身倦怠感(%) | 70 | 60 | 75 | 38 |
接種1回目 | 頭痛(%) | 20 | 12 | 28 | 12 |
接種2回目 | 頭痛(%) | 53 | 38 | 62 | 20 |
全体的に女性の方が男性より副反応の発現率が高い傾向にあります。特に発熱、全身倦怠感、頭痛の男女差は10%以上あり、女性の方が発現しやすいようです。また、65歳以上の被接種者の副反応発現率は全体に比べて低く、若年者のほうが副反応が出やすい傾向にあります。
副反応疑い報告等一覧 PMDA報告症例
副反応疑いとしてPMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告された症例は21例あり、いずれも症状は軽快または回復となっています。
- 皮膚および口腔内のアレルギー反応 年齢性別不明 接種1回目当日発現 回復
- 脱力(手足があがらない)発熱 40代女性 接種1回目当日発現 回復
- 冷感・悪寒戦慄 40代女性 接種1回目当日発現 回復
- 突発性難聴 40代女性 1回目接種8日後発現 軽快
- 左三叉神経障害 40代女性 接種1回目翌日発現 回復
- アナフィラキシー 40代女性 接種2回目当日発現 回復
- 末梢性顔面神経麻痺 20代女性 1回目接種15日後発現 軽快
- 浮動感、左眼瞼挙上困難、左眼違和感 50代女性 接種2回目当日発現 軽快
- 気分不良、動悸、視覚異常 40代女性 接種2回目当日発現 軽快
- 食欲不振 30代女性 2回目接種2日後発現 軽快
- 肺炎 40代男性 1回目接種25日後発現 軽快
- 蕁麻疹 50代女性 接種2回目当日発現 軽快
- 急性冠症候群及び心筋炎疑い 20代男性 2回目接種4日後発現 軽快
- 右前庭神経炎 40代男性 接種2回目2日後発現 軽快
- アナフィラキシーショック 40代女性 接種2回目当日発現 回復
- アナフィラキシー 30代女性 接種2回目当日発現 回復
- 血管迷走神経反射 20代女性 2回目接種翌日発現 回復
- けいれん 40代女性 2回目接種2日後発現 回復
- 蕁麻疹 20代女性 2回目接種3日後発現 回復
- 発熱の長期化、中毒疹 20代男性 接種2回目当日発現 軽快
- 肺動脈決戦塞栓症、深部静脈血栓症 40代女性 2回目接種18日後発現 軽快
まとめ ワクチン接種で気を付けたいこと
医療従事者約2万例の接種調査のデータから副反応をみていきましたが、いかがでしたでしょうか。
1回目接種より2回目接種時のほうが副反応がでやすく、特に接種翌日に発熱や倦怠感がでやすいようです。これは私の副反応とも一致しています。接種翌日は勤務がないほうがよさそうです。
接種部位の疼痛は9割の人にみられることから、利き腕ではない方で接種するほうが、日常生活への影響が少なそうです。
報告された副反応も軽快または回復となっており、ワクチン接種による副反応はいずれも回復しています。
私は過去の臨床試験情報から、2回目接種後は発熱が出やすいことを知っていたので、特に怖がることなく対応できました。熱がでるとわかっているのとわかっていないのでは、心持ちが全然ちがいました。
ワクチン接種を検討する際、2回目接種時は副反応が出やすいこと、翌日は休みを取る可能性があることを考慮して臨んでください。これらの情報がワクチン接種の検討に役立つことを願います。
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