新型コロナウイルス治療薬の特例承認として、またひとつ新しい薬が加わりました。
「ゼビュディ点滴静注液」という薬で、抗体カクテル製剤のロナプリーブ点滴静注と同じく、中和抗体薬(抗体製剤)です。
ロナプリーブについてはコロナ治療薬 抗体カクテル製剤について調べてみました。 | りんブログ (lynn-pharma.com)に掲載していますのでよければご覧ください。
今回はゼビュディ点滴静注について添付文書情報や厚生労働省の資料をもとに調べた情報をお伝えします。
ゼビュディ点滴静注
「新型コロナウイルス感染症に対する治療に用いられる薬及びその候補」に次のように記載されています。ゼビュディ点滴静注の同種同効薬(同じ作用をする薬)はベクルリー®とロナブリーブ®となるので、その3つの記載を比較します。
ベクルリー(レムデシビル) ギリアド・サイエンシズ株式会社 | ○ RNAポリメラーゼ阻害薬であり、エボラ出血熱の治療薬として開発された(点滴薬)。 ○ 令和2年5月7日特例承認された。 ※ 臨床試験等における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。 ※ 日米国際共同治験(中等症~重症対象)の最終結果で、レムデシビル投与患者の回復までの期間の中央値が10 日であり、プラセボ投与の15日よりも有意に短かかった旨報告。 ※ 令和2年7月3日に欧州で条件付き承認、同年10月22日に米国で承認 |
ロナプリーブ(カシリビマブ・イムデビマブ) 中外製薬株式会社 | ○ 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する中和抗体薬(点滴薬)。 ○ 令和3年7月19日に特例承認された。 ※ 重症化リスク因子を有する軽症から中等症Ⅰの患者に投与を行うこと。現時点では、入院患者を対象に供給されている。 ※ 海外第Ⅲ相試験(軽症~中等症Ⅰ対象)において、入院又は死亡のリスクを70%低下させた(p=0.0024)。また、 令和3年3月から日本人健康成人対象の試験が実施された。 |
ゼビュディ(ソトロビマブ) グラクソ・スミスクライン株式会社 | ○ 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する中和抗体薬(点滴薬)。 ○ 令和3年9月27日に特例承認された。 ※ 重症化リスク因子を有する軽症から中等症Ⅰの患者に投与を行うこと。 ※ 海外第Ⅱ/Ⅲ相試験(軽症~中等症Ⅰ対象)において、入院又は死亡のリスクを85%低下させた(p=0.002)。また、令和3年7月から日本人及び白人の健康成人を対象とした海外試験が実施中。 |
ゼビュディ点滴静注はロナプリーブと同じく、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する中和抗体薬です。ロナプリーブは2種類の抗体を混ぜて使用するのに対し、ゼビュディは1種類の抗体となります。
治療対象はロナプリーブと同様に「重症化リスク因子を有する軽症から中等症Ⅰの患者」となります。
ロナブリーブと同様に入院または死亡のリスクを低下させる、とあります。
ゼビュディの効能効果、用法用量
ゼビュディの効能効果、用法用量をすでに使用されているロナプリーブと比較します。
ゼビュディ | ロナプリーブ | |
効能効果 | SARS-CoV-2による感染症 ○臨床試験における主な投与経験を踏まえ、 SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。 | SARS-CoV-2による感染症 ○臨床試験における主な投与経験を踏まえ、 SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、 酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。 |
用法用量 | 成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ソトロビマブ(遺伝子組換え)として500mgを 単回点滴静注する。 ○SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。 症状発現から1週間程度までを目安に投与することが望ましい。 | 成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)及びイムデビマブ(遺伝子組換え)として それぞれ600mgを併用により単回点滴静注する。 ○SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。 臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。 |
治療対象の患者はロナブリーブと全く同様となっています。使用できる薬剤がもうひとつ増えた、という感じです。
また、ゼビュディはロナブリーブと同様に、小児の試験は実施中で、現時点では小児のデータはありません。「新薬の承認に関する資料」には、小児使用の設定理由が次のように記載されています。
小児における臨床投与データは得られていない。ヒトでの曝露量範囲は、COMET-ICE 試験においてソトロビマブを投与された成人被験者(体重範囲:49~183 kg)で評価された。
ゼビュディ点滴静注液500mgに関する資料 より転記
モデル解析のアロメトリック式に基づき、小児(40~48kg)の体重での曝露量を予測した時の体重 40kg の小児における曝露量(Cmax 及び AUC)の増加の程度は成人(48kg)と比べ120 及び 115%に相当する。この差は非臨床の無毒性量の曝露量が成人の曝露量を十分にカバーしていること(2.4.5 参照)を踏まえると小さく、個体間変動程度の範囲であった。以上のことから、12 歳以上かつ体重 40kg 以上の小児に対して成人と同じ用法・用量を設定することを妥当と判断した(2.5.3.5.2.参照)。
なお、本邦の 12 歳以上 15 歳未満の年齢層の患者では、治療法については成人とほぼ同様であり、体重及び身長も成人と大きく異ならないと考えられる[文部科学省, 2019]。アジア人における平均身長及び体重は低い傾向があるが、12 歳以上 15 歳未満の小児の体重の下限として 40 kg の制限を設けることで曝露量への影響は制限されるため、海外と同様に安全性及び有効性を確保できると考えられる。そのため、海外と同様に 12 歳以上かつ 40 kg 以上の下限を設けることで、成人と同様の投与量を推奨することは妥当であると考える。
海外と同様の基準として、小児への使用を許可しているようです。
ゼビュディの副作用
ゼビュディの重大な副作用として次の二つが記載されていました。
- 重篤な過敏症(頻度不明)
- Infusion reaction(頻度不明)
今回上記2つの重大な副作用が設定された理由として、「新薬の承認に関する資料」内では、ゼビュディの治験ではアナフィラキシー等の重篤な過敏症やInfusion reactionが認められていないが、類薬で認められているため設定した、とあります。
また、今回の治療対象とは異なる「入院を必要とする中等度から重度のCOVID-19感染症患者」を対象とした海外の試験で、ゼビュディとの因果関係が否定できないアナフィラキシー反応が1件、息切れが1件報告されている、とありましたので、起こる可能性は考えておいたほうがよいようです。
その他の1%未満の副作用は次の通りです。
発疹、皮膚反応、悪心、注入部位疼痛、疼痛、血中重炭酸塩減少、CRP増加、AST増加、ALP増加、γ-GTP増加、酸素飽和度低下、頭痛、味覚不全、不眠症
上記副作用については、同種同効薬のロナプリーブには記載がありませんでしたが、副作用の頻度としては1%未満であり、今後の使用状況によって変わっていくと思います。
ゼビュディの変異株への効果
ロナプリーブ、ゼビュディともに、in vitro(試験管内データ)での抗ウイルス活性について添付文書に記載されています。その記載内容を比較します。
ゼビュディ | ソトロビマブは、SARS-CoV-2(野生型USA-WA1/2020分離株)に対し、 濃度依存的な中和作用を示した(EC50の平均値:100.1ng/mL)。 また、懸念すべき変異株(VOC)及び注目すべき変異株(VOI)のうち、 alpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、 delta株(B.1.617.2、AY.1及びAY.2系統)、B.1.427系統、B.1.429系統、 eta株(B.1.525系統)、iota株(B.1.526系統)、kappa株(B.1.617.1系統) 及びlambda株(C.37系統)にみられるスパイクタンパク質の主要変異を導入した シュードタイプウイルスに対して中和活性を保持していることが示唆された (EC50は野生型の0.35~2.3倍)。 |
ロナプリーブ | In vitroにおける検討において、懸念すべき変異株(VOC)及び注目すべき変異株(VOI)のうち、 alpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、 delta株(B.1.617.2系統)、epsilon株(B.1.427及びB.1.429系統)、B.1.526.1系統、 zeta株(P.2系統)、eta株(B.1.525系統)、theta株(P.3系統)、iota株(B.1.526系統)、 R.1系統、kappa株(B.1.617.1系統)及びB.1.617.3系統のスパイクタンパク質の全配列又は その主要変異に対して本剤が中和活性を保持していることが示唆された。 |
多少の効果の差hはあるものの、中和活性は保持していることが示唆された、とあるため、変異株にも効果があると思われます。
また、ゼビュディの審査結果報告書に、デルタ株の中和活性についての試験結果が記載されていました。
1.1 変異株に対する中和活性(CTD 5.3.5.4:2021N483004)
ゼビュディ 審査結果報告書より転記
特例承認に係る報告(1)の確定以降、変異株に対する中和活性について新たな試験成績が提出された。
アミノ酸変異を有する S タンパク質を発現させた非増殖性水疱性口内炎ウイルス(シュードウイルス粒子)を本薬で処理し、Vero E6 細胞を用いて、20~24 時間培養後の細胞中のウイルス感染を検出するルシフェラーゼレポーターアッセイにより、本薬の中和活性が検討された。結果は表 27 のとおりであり、野生株に対する中和活性と大きく異ならなかった。
機構は、本情報について添付文書において情報提供するよう申請者に指示し、申請者は了解した。
系統 | 検討されたアミノ酸変異 | 中和活性の変化倍率 |
AY.1系統 (Delta株) | T19R、T95I、G142D、E156G、F157 欠失、R158 欠失、 W258L、K417N、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N | 1.1倍 |
AY.2系統 (Delta株) | T19R、V70F、G142D、E156G、F157 欠失、R158 欠失、 A222V、K417N、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N | 1.3倍 |
中和活性の変化倍率は「変異株におけるEC50(幾何平均)/野生株におけるEC50(幾何平均)」で計算されています。
EC50は50%効果濃度といい、薬物や抗体直dが最低値から最大反応の50%を示す濃度のことで、薬の効果を示す濃度の指標です。
中和活性の変化倍率が1.1倍ということは、野生株に効く濃度の1.1倍の濃度で効果がある、ということなので、ゼビュディは、デルタ株に対しても野生株と同じように効く、と考えてよさそうです。
まとめ
今回特例承認された、ゼビュディ点滴静注薬はロナプリーブと同じように使用する抗体製剤のようです。またin vitroデータではありますが、デルタ株にも野生株と同じように効果があると示唆されています。
新型コロナウイルスの治療薬はまだまだ供給される量が少なく、国が管理して供給している状況ですが、ロナプリーブと同様に、重症化を防ぐ薬として臨床現場で活躍してくれることを願います。
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